【ポルトガル】エボラの郷土料理

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アレンテージョ地方の中心都市であり、ローマ時代から政治、商業、学問の拠点として栄えてきた古都エボラ。城壁に囲まれたその旧市街のへそに当たるジラルド広場から東へと路地を歩いていくと、やがて由緒ある大聖堂や、コリント式の円柱が並び立つディアナ神殿が目に飛び込んでくる。その隣には、市民の憩いの場となっている小さな公園がある。奥へと歩いていく。次第に北側の眺望が開けてくる。公園の先端にたどり着く。眼下には、エボラの白い町並み。その向こうでゆるやかに弧を描く丘陵までも一望できる。西の空では、オレンジ色の太陽がこの日最後の輝きを放って沈み行こうとしている。

アレンテージョ二日目の落日は、この小高い公園の傍らで静かに迎えた。
明日は、いよいよ首都リスボン。ちょうどあの太陽が落ちていく方向を目指す。

エボラで旅装を解いた宿は、旧市街の中心に位置するジラルド広場からやや奥まった路地にあった。夕日を見届けたぼくは、ジラルド広場を横切っていったん宿に戻ると、夕食のために再び外に出た。石畳の路地を広場の方へと歩き出してまもなく、こぢんまりとしたレストランの前を通り過ぎようとしてふと立ち止まった。日中はそれと気づかないほど目立たないたたずまいであったのに、日がとっぷりと暮れた今、ガラス越しにのぞいてみた店内は立錐の余地のないほどの賑わいを見せていた。ほとんどが地元の客だろうか。ほのかな照明の下で語らい、料理を味わっている。飾らない雰囲気が窓を伝わって外にまで漂ってくる。こういうお店の料理は美味しいに違いない。しばしためらっていたが、勇気を出して扉を開けてみた。

Ttblog_071206fテーブルはどこも満席だったので、別室のカウンターに通された。が、こちらも満席。立ったまま待つことに。カウンターの向こうには、5、60代の寡黙そうな店員が一人。注文から料理の出し下げ、会計まですべてをこなしている。非常に忙しそうだが、てきぱきと正確にさばいている姿がじつに見事だ。男の手際の鮮やかさもあって、数分後、無事カウンターに座ることができた。

さて、何を食べようか。お品書きが手書きであるところがまたいい。いいのだけど、ただでさえ苦手なポルトガル語。解読に苦労する。とりあえず、エボラの名物料理だという豚肉とアサリのアレンテージョ風「Carne de Porco a Alentejana」の文字を探してみよう。……あった。11番だ。メインはこれで決まり。あとは、ポルトガルならどこでも美味しいスープを最初に。デザートには、これもポルトガル名物のチョコレートムースを。そしてもちろん、ワインだ。ハウスワインは、「Reguengos DOC」とある。今日、モンサラーシュからこの町に向かう途中で下車したのがそのReguengos(レゲンゴス)だ。タブッキの作品『レクイエム』でも言及されているように、有名なワインの産地である(過去記事「レゲンゴスのワイン」を参照)。

が、目の前に置かれたボトルのラベルには、Redondo(ルドンド)という名が。ルドンドはエボラから東に離れたところにある陶器で有名な町である。ガイドブックを見たところ、この町もワインが有名であり、ワイン博物館もあるという。ルドンドもレゲンゴス地方に含まれるのだろうか。わからないけれど、ラベルから判断するときっと定評ある銘柄なのだろう。

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ちなみに、旅行後に調べたところ、ポルトガルにはいくつかのDOC(統制原産地呼称ワイン産地)があり、アレンテージョはそのひとつとのことだ。で、アレンテージョDOCはさらにいくつかの下位地域に区分されていて、エボラ、レゲンゴス、ルドンドなどがそれに当たる。メニューの「Reguengos DOC」はどうやらこの下位地域を指しているらしい。とすると、同じアレンテージョDOC内ではあるが、厳密に言えばレゲンゴスとルドンドは別のワイン産地となるのだろう。

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Sopa de Legumes。野菜スープだ。春まだ浅いアレンテージョの夜には、この暖かさが胃に染み渡る。お皿の青い模様にも目がいく。ルドンドは陶器の名産地でもある。ワインだけでなく、このお皿もルドンド産かもしれない。いつか、ルドンドも訪ねてみたいものだ。

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お待ちかねの豚肉とアサリのアレンテージョ風。ボリュームたっぷり。豪快な田舎風。
豚肉はかなり堅めで歯ごたえ十分。ちょっと食べにくいが、これもポルトガルの素朴さの表れと解釈しておこう。

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最後にデザート。Moose de Chocolate。初挑戦だが……甘党のぼくにも、さすがにこれはかなり甘い。が、出されたものはしっかりと食べる。ごちそうさま。

おなかも満たされ、お店の雰囲気にも満足して店を出た。
腹ごなしに、夜の旧市街を少し散歩してみることにした。
すっかり闇に包まれた石畳の坂道をコツコツと登っていく。
その先から、ほのかな明かりがもれてくる。
ジラルド広場は、もう目と鼻の先だ。

18件のコメント

  1. あづま川
    2007年12月13日

    >oink_oinkさん
    脳内リスト、ひそかにのぞいちゃいました。
    この映画、本当はポルトガルに行く前に観たかったんだけど、レンタル店には置いてなくて。
    最近になってようやくDVDが格安で発売されたので、思わず買ってしまいましたよ。
    ベンダースはやっぱり『パリ、テキサス』がいちばん好きかな。
    あとは、『ミリオンダラーホテル』、『都会のアリス』、『アメリカ、家族のいる光景』とか。
    もちろん『ブエナビスタ・・・』も。
    『東京画』も観たい一本に入ってますよ。似てますね、脳内リスト・・・。
    昨年の講演会の内容もなかなか興味深かったので、レビューの中でちょっとだけですが触れるつもりです。

  2. oink_oink
    2007年12月12日

    何度も何度も…お騒がせしてます…
    サグレスで乾杯、いいですねー。
    それまでに、何とか濃いポルトガル男子を捕まえて現地でお二人をお待ちしてます…(ってあてがないけどね…)
    「リスボン物語」…って、あづま川さんは絶対私の脳内リストをのぞいている…
    ヴィム・ヴェンダース作品は6本くらいしか見て無くて、「東京画」とともに、「リスボン物語」も「my見るべしリスト」にはいっているんですよ…
    それでは私も近いうちに見ます!
    あづま川さんのレビューも楽しみにしてますので!

  3. あづま川
    2007年12月12日

    >soraさん
    エボラ熱はアフリカですよね。あまりよく知りませんが、
    有効なワクチンもないようですね。
    もしもミランに勝ったらレッズな写真をアップしてください。
    鹿さんの赤じゃなくて浦和の「本物の」赤をお願いします(しつこい?)
    というか、soraさんの真っ赤な顔をアップしてもらいましょうか(笑

  4. sora
    2007年12月11日

    くだらないレスですみません・・・。
    エボラと聞くと、どうしても「エボラ出血熱」を想像します。このエボラはアフリカですね・・。
    不謹慎ですが「エボラ出血熱」の記事をナショナルジオグラで読んで、感動?し、ウィルス関連の本を読み漁りました。ウィルスってすごい!って・・・。
    記事には無関係な話でした・・・。レッズ、良かったですね~。「赤い」写真を準備しておきますね。
    ちなみに僕は完全な下戸+顔真っ赤です。でもサグレスではビール呑みまっせ!

  5. あづま川
    2007年12月10日

    >kyocoさん
    おなか鳴りましたね(笑)
    料理はボリュームたっぷりで満足でした。
    ぼくの心はこれほど美しくはないですが、見てくれた人のココロが少しでも
    きれいになればうれしいです。
    またお立ち寄りくださいね。

  6. あづま川
    2007年12月10日

    >sunnyさん
    お帰りなさい。ブータン楽しかったですか?
    GRD IIも活躍してくれたようで、あとで旅行記ゆっくり見に行きますね。
    年末イエメン会あるんでしょうか。もしお会いできたら少しはアドバイス
    できると思います。にしても、すぐにシリア&ヨルダン、うらやましいなあ・・・。

  7. あづま川
    2007年12月10日

    >oink_oinkさん
    ポルトガルネタ、熱く語ってください。大歓迎です。
    下戸といっても、一滴も飲めない訳じゃないんです。すぐに顔に出るから恥ずかしいだけで。
    時間をかければけっこう飲めます。
    アヴェイロでは駅のアズレージョと、運河に浮かぶ色鮮やかな船を見てみたいなと。
    あ、あとモンサントには絶対に行きたい。山の上の美しい村。
    で、最後はサグレスで乾杯といきたいです。soraさんと落ち合う計画になっている
    のですが、oinkさんもぜひご参加を。3人でボトルを空けましょう!
    そうそう、前回言いそびれたのですが、映画&ポルトガルネタということで、
    ベンダースの『リスボン物語』は観たことありますか? ぼくは観たことがないのですが、
    先日、限定版のDVDをAMAZONで購入しました。じつは昨年ベンダースが
    来日したときに講演会に足を運びまして、そのときにこの映画のことも
    少し語っていました。その内容と絡めてそのうちレビューを書こうと思ってます。

  8. あづま川
    2007年12月10日

    >ヒョウちゃん
    エボラに行ったら、ポークのアレンテージョ風は絶対に
    食べないとと思ってました。
    街自体は古都にしては見所はさほどないのですが、周辺の魅力的な
    村々への基点として便利ですよね。アライオロス、ルドンド・・・
    訪ねてみたい彼の地がたくさんあります。
    またモンサラーシュにも行きたいですし。

  9. kyoco
    2007年12月10日

    素敵なご飯たち。。
    うまそー!!です^^。
    ぐるぐるぐる~。
    表紙の写真も本当にきれい。
    あずま川さんのココロに似ていそうです。かなりの推測ですが。。^^;。。。
    でも、本日も立ち寄ってよかった~♪

  10. sunny
    2007年12月10日

    こんにちは!
    写真はすべてGRDですか?表紙なんて光と陰の絶妙な感じが最高ですね。
    まだ2の操作方法がよくわからないままブータンで撮影してきました。前のコンデジよりはやはり写りがいいですが・・・
    年末のヨルダン&シリアまでには(ってあとちょっとですが^^;)、操作方法勉強&撮影練習しようと思ってます。
    今度お会いしたとき宜しくご指導ください。

  11. oink_oink
    2007年12月10日

    何度もすみません…ポルトガルネタはつい語ってしまいます…
    下戸なのにボトル一本を一人でオーダー??
    でも、飲めないのによくblogにアルコールが出てく来ますよね…土地を楽しもうとする姿勢が徹底していますね。
    なら、「サグレスでサグレスを飲む」は必須ですよね…?
    ポルト、アヴェイロも行きました。
    アヴェイロの駅、かわいかったですよ。
    中央の運河沿いは大きなショッピングモールがあったりするのですが、ちょっと外れると偉く田舎だったりします。
    私は小さな町と思っていたのですが、前回のEURO杯でも使用されたスタジアムがあるくらいなのでわりと規模が大きいのかも?
    シントラ、オビドスは観光客だらけですが…
    ただシントラでは、団体は宮殿の廻りをうろつくくらいですぐ居なくなってしまうようです。
    もう少しあがったところに城砦があるのですが、人もそんなにいないし、木々が鬱蒼としていて素敵です。
    確か午前中に行ったのですが、朝靄がかかった町を見下ろす景色がすばらしかったです。
    後はあちこち、ちょこちょこと…。
    もし深夜特急を先に読んでいたらサグレスも行ってたのかも?
    次の「食いネタ」も楽しみにしてますー!

  12. ヒョウちゃん
    2007年12月9日

    いいですよね、エヴォラ。
    もう6年くらい前になってしまいますが、ここに1泊だけしたことがあります。
    そのときも、アレンテージョ料理ということで、あづま川さんと同じメニューを頼んだと思います。昼食でしたが。
    夕食はアンコウ料理でした。
    チョコレート・ムースはよく頼みますよ。
    甘いけれど、疲労回復にもなるかなと思って頼みます。
    1枚目の写真の場所、たぶん行っているはずですが、今となっては思い出せないです。
    エヴォラも日程に余裕があったら、訪れてもいいところだったのですが、今回はサグレスを優先させました。
    続きの食べ物も期待しています。
    どんな料理が出てくるだろうか。

  13. あづま川
    2007年12月9日

    >oink_oinkさん
    同じところから写真撮りましたか? やめようなんて言わずに今度見せてくださいよー。
    ワインは一人で一本飲んでますよ。ハウスワインがほとんどですが、だいたいはボトルです。ただまるまる一本空けきることはほとんどないです。下戸なので・・・本当です・・・。
    ナザレ・・・行ってみたいです。oinkさんが気に入ったのならなおさら。今度ポルトガルを訪れるなら、ポルトからアベイロ、ナザレ、リスボンと南下して、フィナーレはやっぱりサグレスで、って感じかな。
    エボラの写真はまた掲載します。翌日食べた料理の写真もあるので、こっちも楽しみにしてください。

  14. あづま川
    2007年12月9日

    >hanamizukiさん
    本日のメニューが殴り書きされている黒板なんかもいいですよね。
    ぜんぜん読めないんだけど、なんだかうまそうに見えるんです。
    GXいきましたか。人気ありますよね。
    年末はGXといっしょにどこに行くのでしょうか。

  15. あづま川
    2007年12月9日

    >良速さん
    店員の仕事ぶりと表情からは、積み重ねてきた経験がにじみ出ていました。
    異国での職人芸との出会いはいいものですよね。ここにもまた、自分の腕ひとつで
    しっかりと生きている人がいるのだな、となぜか安心させられます。
    GR DIGITAL、後継機のIIが出たばかりなので、おひとついかがですか?

  16. oink_oink
    2007年12月9日

    懐かしいなぁ…
    「なんか見た事ある景色…」
    とおもったので多分同じ公園に行っていると思います。
    昼間ですが、同じ角度で写真を撮りますが、エライ違いですな…
    (自分のblogに出すのは辞めよう…)
    あづま川さんの食事の写真ではよくワインがボトルで撮影されているけど、一人で一本飲んでるのでしょうか??
    お連れの方がいらっしゃったり?
    グラス売りは銘柄指定できるほど、そろえてなさそうだし…
    (私の場合はだいたいハウスワインをデキャンタで飲んでいたので、銘柄までは考えてなかった…)
    あづま川さんの「旅」はその地を感じる事にどん欲ですよね…
    (私はダメダメです…
    広場から少し下ったところにあるレストランでシーフード系の何かを食べた記憶がありますが、何を食べたか覚えてない…
    広場からの幾筋かの道、レストラン結構あったけど、盛り上がってる店を見つけられなかったしね…)
    そうそう、リンクをたどって過去記事も読ませていただきましたが私はナザレ、結構好きですよ。
    キッチン付きの部屋に泊まったから、海辺で買った干物を焼いて部屋でお米と肉ジャガで和食を食べました。
    TVでポルトガル版「ミリオネア」を見ながら…
    …こういう記憶はあるのになぁ…
    長くなってすみません。
    「白い記憶」シリーズも、次回楽しみにしています。
    こういうチョイスをさらっとできるからやっぱりあづま川さん、センスいい…。

  17. hanamizuki
    2007年12月9日

    お久しぶりです。
    手書きメニューにポルトガルらしさを感じます。
    「食べること」がきちんと生活の重要なイベントという証の現れのようにも思えますよ。そういう地域は少なくなったから余計。
    余談ですが遂にGR・・・じゃなくて結局GX買っちまいました。

  18. 良速
    2007年12月8日

    初老の給仕の仕事ぶりが目に浮かぶようです。
    異国で確かな仕事をしている人を見ると何故か心が落ち着きます。
    仮初めの住人が抱く不安を、その人の自信が払拭してくれるのでしょうか・・・。
    一枚目の写真。いい露出ですねぇ。
    湿度が伝わって来るって云うのかな・・・GR DIGITAL、やっぱり良いなぁ。

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