2002, Jordan
旅に惹かれ、仕事の合間を縫っては海の向こう、特にアジアやイスラムの国々を訪れるようになったのは、ちょうど20世紀から21世紀に移り変わる時代の変わり目、世界中で「ミレニアム」という言葉が踊っていた頃だった。
頭の中まで溶け出しそうな容赦のない日射し、どこまでも乾いた砂漠と空、肌にまとわりつくような湿り気を帯びた空気。安宿の窓から伝わってくる喧噪。それまで感じたことのない熱気や湿気、ざわめきに包まれる体験は新鮮でありながらどこか懐かしくもあった。静と動、光と影、変わりゆくものと変わらないもの、目新しいものと懐かしいものが交錯し、並存する。そんな国を旅するときの高揚感が帰国後も忘れられず、次の旅へと心が駆り立てられた。
21世紀初頭はまた、インターネット普及期・発展期でもあった。そんな時代の波に乗ってみようと、自分も2001年に旅サイト(旧「彼の地への旅」)を立ち上げ、2004年にはいち早く旅ブログも始めた。そんな自分にとって21世紀初頭は、旅の熱に浮かされていた時代と言ってもさほど大げさではない。
2004, Tunisia
ひるがえってここ数年、旅は自分の心を大きく占める関心事とはとうてい言えなくなった。「新たな旅に出たい」という、かつてのあらがえないほど強い欲求が自分の中に湧いてこなくなった。理由はいろいろあるけれど、一番大きかったのは、親の介護と入院、そして死に直面したこと。その後の実家の家財整理などに追われていたことだ。心身ともに落ち着かない状態が続き、旅は片隅のどこかに追いやられた。そんなところに襲来したパンデミックが、旅を心からさらに遠くへと切り離すことになった。
前回の投稿からおよそ2年半もの時が流れた。その短くない間に、コロナ禍に置かれていた世界はようやくポストパンデミックへと動き始めた。そんな明るい兆しが見え始めた矢先のこと、今度は自分自身が入院する事態に。詳しくは書かないけれど、片腕に麻痺が発生し、その根本原因となっていた頚椎の手術を受けた。退院後もリハビリを1年以上続けてきた。その甲斐あって、ようやく日常生活に支障を来さないレベルまで腕力が戻ってきたところ。下手をしたらこの先ずっとカメラも構えられず、ロードバイクにも乗れなくなるところだったけれど、今はほとんど問題ない状態だ。あれやこれやを経て、今ようやく心身ともに憂いなく、そして周囲の事情や環境に振り回されることなく旅立てる状態になりつつある。
というわけで、久しぶりにどこか海の向こうに行って新たな刺激を受けようかなと思い始めている。実家の売却と自身の引っ越しという一大イベントが控えているので具体的にいつとは決められないけれど、できるだけ早い時期に。いったん旅に出て彼の地の空気を肌で感じれば、かつてのような「旅の熱」がひょっとしたら復活するかもしれない。
そうそう、旅といえば、何十年も怠らなかったパスポートの更新を忘れるという失態を犯してしまった。それも、失効から1年以上経ってようやく気づくという始末。いくら心が旅から離れてしまったとはいえ、これには我ながら愕然としてしまった。次の旅立ちがあるとしたら、まずはパスポートを新規取得するところから始めなければならない。初心からのスタートといった感じで悪くはない気分だ。
2006, Morocco