光晴とランボー、マレーとイエメン

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マレー半島縦断の旅に出る数日前、池袋のカメラ店でリバーサル15本とモノクロ数本を購入。フィルムコーナーはますます片隅に追いやられていて、10本パックとかも売ってなくて、13,000円払って財布も羽のように軽くなって、でも代わりに得たこのフィルムのかさばりと重さが高揚感をかき立てるんだよなあなんて一人悦に入りながらジュンク堂に立ち寄ったら、文庫の新刊コーナーに金子光晴の『西ひがし』が平積みになっていた。こんな古典がなんで今頃。いぶかしく思ったのだが、昨年末に改版されたとのこと。ナイスタイミング。文庫版『深夜特急2』とあわせて購入。カメラといっしょに、この2冊をバッグにしのばせることにした。旅の友としてはとてもベタではあるが。

金子光晴といえば……帰宅後ふと思い出して、しばし書棚を探ってみた。あったあった。奥から取り出したのは、鈴村和成の『金子光晴、ランボーと会う』である。

放浪の詩人、金子光晴とアルチュール・ランボー。光晴は何もかも投げ出して日本を離れ、マレーシアのバトパハに当時あった日本人倶楽部を仮の拠点として、フランスや蘭印(現インドネシア)を放浪した。一方、ランボーも詩を放擲し、放浪の果てにイエメンのアデンにたどり着き、灼熱のこの地の商館を拠点として生きるすべを貿易に見いだそうとした。

また、ランボーは放浪時代に蘭印のジャワ島に立ち寄ったことがあり、そして光晴はランボーの祖国フランスを放浪し、またランボー作品の訳者としても名高い。このように接点の多い2人の詩人を、時を越えてジャワ島で「邂逅させよう」と目論んだのが、この『金子光晴、ランボーと会う』だ。マレー・ジャワ紀行としても興味深い内容ではあるのだが、数年前に何となく購入したときには興味がさほどもてず、ちらりと目を通しただけで書棚行きになり、買ったことさえ忘れかけていたのであった。

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バトパハ、旧日本人倶楽部      RICOH GR21

そして今度のマレー縦断旅。確定するまでどこに行こうか散々迷ったのだが(雲南、スリランカ、キューバ、エジプトなどなど)、昨年はイエメンのアデンを訪れてかつてランボーが滞在していた旧商館に泊まったし、それに続く今回の旅で光晴ゆかりのバトパハを訪ねてみる気になったのも、ランボーと光晴の関係を描いたこの本の影響が少なからずあったのかもしれない。

かさばる単行本だけど、迷った末、これもバッグの中に押し込んだ。果たして、彼の地では折々にページをめくることとあいなった。

「今日ではカメラを持たずに旅をする人はまずいない。カメラは平等な機械だ。カメラを持ち、現場を踏む私たちは、みな紀行作家だ。そう言えば、ランボーもエチオピアのハラルにまで写真機を持ち込み、セルフ・ポートレートを含む何枚かの写真を撮った。写真を入れた《奇妙なアルバム》をつくろうとしたランボーは、驚くべき紀行作家だったと言うべきではないか。」
     「金子光晴、ランボーと会う マレー・ジャワ紀行」 (弘文堂)

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アデン、ランボーハウス  RICOH GR DIGITAL(セピアモード)

そしてもう1冊、横山良一の写真集『アジア旅人』。金子光晴の『マレー蘭印紀行』、『西ひがし』、『どくろ杯』などから引用された文章と著者の写真のコラボレーションは絶妙だ。当時の空気感が蘇ってくるようだ。この本はずっしり重たいのでさすがに家に置いていったけれど、この旅が決まってからは頻繁に目を通していた。

アデンのランボーハウスとバトパハの日本人倶楽部については、そのうち独立した記事と写真を掲載しようと思ってます。


金子光晴、ランボーと会う―マレー・ジャワ紀行


アジア旅人


西ひがし 改版 (中公文庫)

1件のコメント

  1. ERICA
    2008年2月13日

    わー、すみません。
    コメントを入れる前に送信しちゃいました・・・
    バトパハの写真 素敵です!
    本を読んで旅に出たくなりました。
    独立記事と写真楽しみにしています。
    私も次はキューバかエジプトを狙っています。

    返信

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