
扉を開けると、まばゆい朝陽がまっすぐに部屋に射し込んでくる。目を細めながら表に出る。すがすがしい朝の山の空気に包まれる。何度も深呼吸する。おいしいからでもあるし、薄いからでもある。なんていってもここは標高4000メートル近くもあるのだから、浅い呼吸では息苦しくなる。
見上げれば雲ひとつない蒼穹が広がっている。視線を落とせば、刈り取りを終えた大地に、ポプラの緑が彩りを添えている。日本ならとっくに森林限界を超えている高所であることを、目の前の農村風景は一瞬忘れさせてくれる。一方、村を取り囲むようにそびえ立つ山々はさすがに木々もなく荒々しい様相を見せている。なかでも、雪を頂く名峰ストック・カングリ(標高6123m)の姿がひときわ印象的に目に映る。反対側に目を移すと、遠くにチョグラムサルやレーの町を望むことができる。
滞在させてもらった家は伝統的な三階建てになっている。一階は家畜小屋と倉庫、二階が住居、そしてぼくが泊まっている三階。ぼくの部屋は元々は仏間だったそうで、窓が他の部屋とは違って黒で縁取られている。
食事は二階の居間兼台所で。親類やご近所さんの集まりにも対応できるよう広々としていて、とても心地よい。昔ながらのかまどや、棚に並べられた伝統的な鍋や食器に興味をそそられる。初めて見るものばかりなのに懐かさを感じるのは、太い木の柱や天井から伝わってくるぬくもりのせいなのかもしれない。



レーから十数キロ離れた山麓に広がる村、ストック。ラダックでのメインの滞在先となったのは、その静かで穏やかな村の、そのまた奥に位置する一軒の古民家だった。この家に住んでいるのは、日本人の池田悦子さんと地元ラダッキのワンボさんのご夫婦。悦子さんがラダックから発信しているブログの記事をぼくがたまたま読み、当ブログで紹介した(過去記事「ラダックからの祈り」)ことが、今回のホームステイへとつながった。
ラダックでホームステイできるところはほかにもあるけれど、悦子さんたちの家にステイしてよかったと感じたのは、捨て置かれた状態から修復された伝統的な古民家に滞在し、その構造や暮らしをこの目で見て体で感じることができたこと、さらに、現地に移り住んだ日本人という視点からラダックでの生活や苦労話、現在抱えている課題について詳しく聞けたことだ。
話がちょっとそれるけれど、先日、遅ればせながらドキュメンタリー映画「幸せの経済学」を観た。『ラダック 懐かしい未来』の著者として知られるヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんの監督作品である。この映画でヘレナさんは、欧米型の大量消費文化の波に突然さらされたのをきっかけとして、それまでの自給自足の満ち足りた暮らしを貧しいものとみなすようになり、自然や地域社会とのつながりから切り離されようとしているラダックの人たちを例にとり、グローバリゼーションの負の側面を訴え、その解決策としてその対極にあるローカリゼーション(地域化)の促進を提言している。
この提言には未来に対する多くの示唆が含まれており、ほぼ全面的に賛同できる。ただこれはやや誇張かなと感じたことがひとつあって、それはあたかもラダックがグローバリゼーションの波に飲み込まれてしまったと受け取られかねない描き方をしていた点だ。欧米の製品や文明が予想以上に浸透しているのをぼく自身も目の当たりにしたのは事実だし、それだけでも数十年前の閉ざされた自給自足の暮らしに比べれば劇的な変貌なのかもしれない。ただ、ぼくが見てきた限りでは、ラダックはまだまだ土地と地域とのつながりを濃密に維持しているし、自らのアイデンティティーを大切にしている。便利さを求めながらも大量消費文明に飲み込まれず、まだ色濃く残っている「持続可能な暮らし」をどのように守っていくか。それが現在のラダックの課題ではないだろうか。それはラダック自身の課題ではあるけれど、その大切さを気づかせることができるのは、課題の渦中に置かれているラダックではなく、先進国と呼ばれる国に住む私たちではないかと思う。
悦子さんから聞いたところによれば、現在ラダックでは家の新築ラッシュで、古い家を捨てて現代的な新しい家に移り住む動きが加速しているという。その原因はいくつかあるようだけど、グローバリゼーションの波に乗って押し寄せた大量消費、廃棄型の文化が一因であることに間違いはないだろう。こうした動きのなかで伝統的な家がどんどん捨て置かれていく。これをなんとかできないか、悦子さんはそう考えて、かつて実家が所有していた古民家の再生を決意したという。
大量生産&消費のサイクルから脱却し、真に持続可能な生活を構築していくことの大切さは、今のラダックの人たちより、ひょっとしたら、3.11大震災を経験した日本人のほうがより切実に理解できるのかもしれない。あの大震災を機に、地域と自然とのつながりを取り戻すことこそ持続可能な暮らしのカギであるという認識が広がり始め、そのヒントを提供する映画として「幸せの経済学」の自主上映が各地で行われていることがそれを示している。
ストックの古民家でのホームステイは、単純に楽しかっただけではなく、自然と地域とのつながりや、持続可能な暮らしについて考えるためのヒントも与えてくれたような気がしている。
そんな悦子さんとワンボさんの古民家は「にゃむしゃんの館」として旅行者を迎え入れてくれる。興味がある人は、悦子さんのブログを訪れてみてください。
2011年10月26日
Meet Youさん
お久しぶりです。
気持ち爆発しましたか(笑)
ぼくもラダックにはずっと行きたくて、昨年ようやくその夢がかない、今年もまた行ってしまいました。
景色の素晴らしさはもちろん、人もやさしいし、子供もかわいいです。
Meet Youさんならきっとステキな写真を撮るんでしょうね。
ぜひ彼の地へ行ってみてください。
2011年10月26日
kaz_a_daichiさん
こんばんは。帰国したのですね。
ストックの家で別れてからもう1か月。。。早いものですね。
ザンスカールにも行ってきたようでうらやましいです。
写真を楽しみにしています。
機会があったら東京のどこかでまた会いましょう。
リンクありがとうございました。こちらからもリンク貼らせてもらいますね。
2011年10月26日
おじゃまします╰(✿´⌣`✿)╯
ラダックはとっても行ってみたいとこなんです。
あづま川さんの写真見てて、もうその気持ちが爆発です(笑)
古い家でのホームステイってなんとも魅力的ですね~☆
これからもちょくちょく遊びに来させていただきます。
2011年10月25日
こんにちは。
パンゴン・ツォとストクでご一緒したkaz_a_daichiです。ご無沙汰しています。
私もラダック、インドの旅を終えて2日前に日本に戻りました。
私にとっては、旅先での日々も日本での日々もどちらも“日常”なのですが、今こうしてあづさんのブログを読んでいるとラダックでの“日常”が懐かしく思い出されます。
あ、この場をお借りしての報告で恐縮ですが、こちらのサイトで「彼の地への旅」をリンク集に追加させて頂きました。
http://www.a-daichi.com/link/travelogue.html
2011年10月22日
vinvivaさん
消費文明を追求したせいで失ってしまったものの大きさに気づきながらも、
そのぬるま湯から抜け出せないでいるのがぼくたちだと思います。
ラダックがグローバル化の波に飲み込まれてしまうかどうかは、先進国と呼ばれる
国に住んでいるぼくたちがどれだけ早く真に持続可能な社会にシフトしていけるかに
かかっているのではないでしょうか。
2011年10月20日
追伸
「幸せの経済学」のWebを拝見させて頂き、最初の頁を読んでいるうちに涙が込み上げて来ました。
何故、今まで豊かに暮らしていた人達が、何も持ってないと思わせる様な消費経済を平気で持ち込むのか。
それ程、人は物欲に駆られているのか、、、
悲しくなって来ました。
かつての日本人が大切して来た、「勿体無い」精神。
物に感謝し、必要最小限の生活。
涙を拭いて、先ず自ら取組んで行かねばなりませんね。
すいません、言わずには居られませんでした。
2011年10月20日
ラダックにも、大量消費の波が押し寄せて来てるんですか〜、、、人は失敗を繰り返し成長するもの、しかし、社会の失敗は影響力が大きい。
個々の力は小さいけれど、根強く活動を続けて行って欲しいですね。
しかし、良い所ですね〜。
2011年10月18日
*pensさん
はじめまして。コメントありがとうございました。
数年前から見てくださっていたのですね。うれしいです。
今回ホームステイしてみて、ぼくがまだ子供の頃の、建て替える前の
田舎に帰ったような懐かしさを覚えました。
古い木の柱とか、おじいちゃんの笑顔とか。。。
今年は残念でしたが、来年行けるといいですね。
風邪、はやってますね。じつはぼくも風邪をこじらせてしまいまして。。。
*pensさんもお体にお気をつけて。また遊びにきてくださいね。
2011年10月18日
kanaさん
いいねx10、ありがとうございました!
「幸せの経済学」は、ラダックに行く前に観たかったのですが、
行ってから観たからこそ気づいた点も多々あったような気がしますね。
それにしても、ヘレナさんと名刺交換ですか。kanaさん、いったい何者ですか!(笑)
ラダックに行ったらぜひストックの古民家に泊まってくださいね。
おすすめですよ。kanaさんなら絶対に気に入るはずです。
2011年10月18日
はじめまして。
実は数年前から拝見させて頂いておりましたが、初めてコメントさせて頂きます。
ラダック、本当に素敵な場所ですね。
いろいろと調べてもその土地の人柄や社会のなりたちなど、自分の子供の頃にあった日本のよう。もう、日本では忘れられてしまった感があるものが息づいているようで。
今年、行こうと思っていたのですが、仕事の都合で泣く泣く断念、、、。でも、来年こそは行ってこようと思っています。
暖かくなったり寒くなったりで体調を崩しやすい時期ですが、お体に気をつけてくださいね。お仕事でお忙しいことと思いますが、それでもひそかに、ブログの更新されるのを楽しみにしています☆
2011年10月18日
いいね!いいね!いいね!いいね!…いいね×10くらいですよ!あづま川さん!
映画「幸せの経済学」もいいでしょう?!私2月に東京で試写会&レクチャーに行ったとき配給元のUnited People の関根さんの取り計らいで、ヘレナさんと名刺交換をするという幸運に恵まれました。きっとラダックにはご縁があるはず!と信じています。
あ〜それにしてもいいなあ、古民家ホームステイ@ラダック。理想的だなあ。奥さんは日本人の方なんですね。私もいつか行こうっと。