インレー湖畔の町ニャウンシュエでは、二つのお祭りが待っていた。ひとつは、インレー湖最大のお祭りであるファウンドーウーパゴダ祭り。足漕ぎボートレースで有名なこのお祭りについては日本を発つ前から知っていたし、このお祭りを見ることが今回の旅の目的のひとつでもあった。このファウンドーウーパゴダ祭りにばかり関心が向いていたせいか、もうひとつのお祭り、ダディンジュについては出発前にはまったく気がつかず、ニャウンシュエに到着してからその到来を知ることとなった。
ダディンジュとは、10月の満月の日に催される、雨安居明け(出安居)を祝う仏教のお祭りだという。出安居のお祭りと聞いて、その昔ラオスのルアンパバーンで偶然出会った出安居のお祭りを思い出した。ラオスではオークパンサーと呼ばれていたはずだ。雨期明けが迫った10月の満月の夜、ろうそくを乗せた数々の灯籠や船が漆黒のメコン川をゆらゆらと流れていく。何の予備知識もなしに遭遇したので、その光景はひときわ幻想的に目に映り、脳裏に強く焼き付いた(過去記事)。巡り巡って、今度はここミャンマーで同じように思いもかけず雨安居明けのお祭りに出会えるとは、なんだか不思議な感じがした。
ダディンジュ当日。この満月の夜には、ミャンマー中のパゴダがろうそくの灯火で満たされると聞いたので、日が暮れた後、ニャウンシュエでいちばん大きいパゴダに行ってみることにした。
宿を出て暗い路地を歩いて行く。家々の門や軒先にはすでにろうそくが並べられ、その周囲だけが暖かい光に包まれている。どこかで爆竹の音が大きく鳴り響く。花火まで打ち上がり始める。まさしくお祭りだ。
パゴダに到着。履き物を脱いで境内に入る。前日の夜に訪ねたときは真っ暗で参拝者もいなかったパゴダが、今夜はたくさんのろうそくの火とたくさんの人、そしてたくさんの祈りで満たされていた。
境内を一周し、正面の入口に戻ってきたところで、お線香とろうそくはいかがですか、と柔らかい物腰の女性に声をかけられた。うーん、自分は単なる異国の旅行者だし。「いえ、けっこうです」と断りかけたところで、はっと気がついた。とても大事なことを。自分が本当に情けなくなった。すっかり忘れていたのだ。今日は父の命日であることを……。
寄付と引き換えにその女性から受け取ったセットには何本ものろうそくと何束もの線香が詰まっていた。パゴダをもう一度回りながら、少しずつ供えて、祈った。幻想的としか思っていなかったろうそくの灯火が、今では自分にとってもっと意味のあるものに変わっていた。思いもかけず遭遇したダディンジュが、図らずも思い起こさせてくれた。いや、思いもかけずじゃない。偶然なようでいて、たぶん偶然じゃないのだろう。
帰り道、ふと見上げると、パゴダの隣で、満月が白い光を煌々と放っていた。次々と打ち上げられる花火が、文字どおり花を添えていた。
Nyaung Shwe, Myanmar / Fujifilm X-T1 + XF35mm