今回の奈良の旅で最も舌に残った味覚。「奈良に来たんだ」という実感を湧かせてくれた一品といえば、慈光院で食べた平そうめんにつきる。
慈光院を建立したのは、大和小泉藩主であり、茶人でもあった片桐貞昌(石州)。茶道石州流の開祖である貞昌は懐石料理の名人でもあり、貞昌みずからふるまったという油を使わないそうめんが、「石州麺」として今に伝えられているという。
その石州麺を食べる前に、まずは名高い庭園を眺めながら抹茶と菓子を。これは拝観料に含まれている。
奈良のそうめんといえば三輪そうめんが有名だけど、ぼくはあの細さが少々苦手。それだけに、目の前に出された石州麺の太さに、え、これがそうめんなの、と驚くとともに、うれしさと期待が込みあげてくる。
一口食べてみる。うん、こしがあって、おいしい。これは後で知ったことだけど、石州麺は稲庭うどんのルーツだという説もあるという。
そうめんと一緒に出された精進料理もおいしい。
大型連休にもかかわらず拝観者はさほど多くなく、奥の一室でまほろばの味をゆっくり堪能できた。
表に出て見上げれば、初秋の青空が広がり、筋雲が静かに横たわっていた。