ラダックで最も有名なゴンパのひとつであるティクセを初めて訪れたとき、偶然にも砂曼荼羅の制作光景と出会った。
まだ作り始めたばかりのようだ。
長い棒から色砂を少しづつ落としていって作り上げていくという、高い技術と集中力を要する作業。もちろん大切な修行でもある。
そんな根気のいる作業だが、それでも何日か後には、驚くほど精緻で色鮮やかな砂曼荼羅ができあがっているはずだ。少しでも完成に近づいた曼荼羅を見てみたい。そう願いながらティクセを後にしたのだが、残念ながらその願いは叶わず、再びこのゴンパを訪れる時間が取れぬまま帰国することとなってしまった。
完成した砂曼荼羅はすぐに壊して川に流してしまうそうだから、あのときの砂曼荼羅はもうどこにもない。翌年、ラダックを再訪したときにティクセにも足を運んだのだが、砂曼荼羅も制作光景も見ることはできなかった。同じ曼荼羅は二度と現れない。諸行無常である。