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Travels on Film #02 – インド、ゴア

ゴアを含む南インドを旅したのは2009年。次々とデジタルカメラに移行していく写真好きを横目に、フィルムカメラをメインとして使い続けていた最後の時期だった。南インドの旅に携えていったフィルムカメラは、当時メインで使っていたPentax MZ-3と、さらに1台、Nikon FEという高校時代に買ってもらった古い一眼レフの2台だった。後者のNikon FEは、露出こそオートだけど、ピント合わせはマニュアル。撮影には一手間かかる。それでもあえて携えていったのは、南インドでは自分の目と手でピントを合わせてシャッターを切るというスローな撮り方を楽しもうと思ったからだ。もう1つの理由は、自分もそろそろデジタルカメラに乗り換えようと決めかけていたこと。フィルム一眼レフを海外に持ち出すのはこれが最後の機会になるかもしれない、それならばと、十代から使っている一眼レフに最後の表舞台を与えてあげようと思ったのだ。

あれから10年以上経ち、南インドに携えていったフィルムカメラは2台ともしまい込んだままで、いまではすっかりデジタルカメラしか使わなくなってしまった。しかし世間を見れば、いまやそのデジタルカメラもスマホに押されてどんどん売れなくなっている。老舗メーカーのニコンも、10年前とは打って変わり、ここ数年は業績が振るわず、凋落の烙印を押されようとしている。逆に、一部の若い世代には手間のかかるマニュアル式のフィルムカメラが刺さっているらしい。時代の流れは誰にも予想できない。

 

ニコンのフィルムカメラはFEのほかにもう1台持っている。New FM2というフルマニュアル機で、親父の形見のようなものだ。先日、久しぶりにFEとNew FM2の2台をドライボックスから取り出し、手に持って操作してみた。ひとしきり空シャッターを切って動作を確認してみる。どちらもしっかりと動作する。一安心したところで、再びしまいこんだ。フィルムカメラが密かなブームになっているためなのか、中古市場を見るとマニュアル式のフィルム一眼レフは特に人気が高いらしく、New FM2も予想外の高値で売られていたりする。とはいえ、自分はもう、かつてのように実際にフィルムを入れ、外に持ち出して撮影するという気持ちにまではならない。

その代わりに持ち出してみたくなりそうなニコンのカメラが、つい最近発売された。FM2にインスパイアされたというミラーレスカメラ「Z fc」だ。フィルムカメラ然としたクラシックな佇まいが評判を呼んでいる。New FM2を持っている身としては、気になるカメラの登場だ。そのFM2ライクな姿にはあざとさを感じざるを得ないけれど、引きつけられてしまう。フジのミラーレスをメインで使っているから、ニコンのカメラを再び買う日などもう来ないだろうと思っていたけれど、これは欲しい。買ってしまうかも。もし買ったら、今度はこの「Z fc」を携えていつか南インドを旅したい。 そんな妄想を繰り広げている。

Travels on Film #01 – インド、パナジ

 前回の記事で、旅ができない間の楽しみとして、過去にフィルムカメラで撮った旅写真を高画質でデジタル化したいと書いたのだけど、ようやくその作業に手をつけることができたので、デジタル化が完了した写真の中から「Travels on Film」と題して少しずつ掲載していこうと思う。

デジタル化の方法は、前の記事に書いたように、ニコンのフィルムデジタイズアダプター「ES-2」を使うというもの。自分が普段使っているミラーレスカメラ、FUJIFILM X-T3にニコンのマクロレンズ、Micro NIKKOR 40mmを(マウントアダプター経由で)装着し、さらにES-2を取り付けてフィルムをセットし、各コマを「撮影する」というやり方。フィルムスキャナを使うより簡単で効率的だし、X-T3で撮ればおよそ2600万画素のデータが得られるのだから画質も十分。RAWで記録しておけば現像ソフトで自分好みに仕上げることもできるし、FUJIFILMのカメラで撮っているからフィルムシミュレーションを適用することだってできる。

副次効果として、ファインダーを通して没入感を味わえるという思いがけない楽しみもある。ファインダー越しにリバーサルフィルムのコマをのぞき、マニュアルでピントを合わせていくと、次第にあのとき見たとおりの光景がファインダーいっぱいに立ち上がってくるから、あたかも今そこに立ってカメラを構えているかのような没入感に浸れるのだ。あーそういえばこのときはあんなことを思いつつシャッターを切ったっけなどと、忘れていた旅の記憶が意外な鮮明さで浮かび上がってきたりする。つかの間だけど、あのとき覚えた高揚感に部屋にいながら浸ることができる。旅に出られない間の格好の妄想の手段となりそうだ。

ここに掲載した写真は、いずれも2009年にインドのパナジで撮ったもの。パナジはゴア州の州都であり、ポルトガルの面影を色濃く残す地区が魅力的な町だ。

 

 

 

 

 
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