朝食後は、まっすぐ宿に戻る。高地に順応するまで無理は禁物だ。が、軽く体を動かした方が順応が早いとも聞いていたので、ひと休みした後、レーの町を散策してみることにした。なるべく息を深く吸いながら、ゆっくりとした足取りで。
にぎやかなメインバザールに出る。真っ先に目についたのは、白いモスクとミナレット。ラダックはチベット仏教の地というイメージを持っていただけに、ゴンパより先にモスクを目にすることになろうとは思わなかった。先入観が崩されていく。そうした瞬間は心地よいものだ。これ以降、レーの町にアザーンの呼び声が響き渡るたびに、自分はいったいどこに来てしまったのだろうという不思議な異境感覚に包まれ、同時に、ここはチベット、カシミール、バルティスタン(パキスタン北部地区)、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)に囲まれた宗教と文化の交差点なのだ、という事実を体で理解していくことになる。
モスクの背後には、レー王宮がそびえ立つ。ずっと見ないようにしていたが、やっぱり気になって見上げてしまう。見上げてしまうと、すぐにでもあそこまで登りたくなる。けれども、高地に降り立ったばかりの今日は息が切れるような運動は禁物。いきなり激しい運動をすれば、そのときはなんともなくても、後で反作用がやってくる。高山病の症状を悪化・長期化させ、後悔すること必至だ。
王宮に登るのを我慢して、モスクの横にあるレー・ジョカンというゴンパを訪れる。明日、ダライラマ法王がこのゴンパを訪れることになっている。きっと多くの信者が押し寄せるに違いない。が、今は参拝者もまばらだ。境内は穏やかで空気で満たされている。見上げれば、透明な空が静かに広がっている。
蒼穹のラダックへ – 初日の朝 –
デリーの空港で一夜を明かし、早朝のフライトでレーへ。
フォートロード沿いの宿で旅装を解く。すぐ近くにある「Gesmo」でボリューム満点の朝食を取る。
9月のレーは、予想していたよりもずっと涼しい。陽射しがない場所だとシャツ一枚だけでは厳しい。が、狂ったような暑さに支配されている東京から脱出するように訪れた身には、この涼しさに心地よさを覚える。朝のすがすがしい空気が窓から顔をやさしくなでる。
空気が薄いとはぜんぜん感じない。息切れもしない。食欲も旺盛だ。本当に高山病になんてなるのだろうか。ひょっとしたら、オレって高山病に強い体なのではないか。そんな期待を抱いてしまうほど気分がいい。もちろんその見込みは甘く、爽快な気分は数時間後には地獄の苦しみに変わることになるのだが(通常、高山病は現地に到着してから半日~1日後に発症する)。
ラダックの写真を掲載する気分になかなかならない。理由は前々回の記事のコメントでズバリ指摘されてしまったとおりで、あの蒼い空を思い出すだけでもう心が満たされてしまい、それ以上作業が進まないから。というわけで、とりあえず今回は食べ物の写真だけ。食ネタだと何も考えずにアップできるので(笑