蒼穹のラダックへ II – チャンラ峠を越えてパンゴン・ツォへ

パンゴン・ツォは、標高4250メートルの高地に広がる湖。二度目のラダックの旅では、蒼穹の下に青々とした水をたたえるこの美しい湖をこの目で見てみたかった。レーからだと車をチャーターして行くことになる。無理すれば日帰りも可能だが、朝夕の湖の風景をゆっくり楽しみたかったので、1泊2日で訪れることにした。
夜明け前、ストック村のホームステイ先を出発。途中、ティクセ・ゴンパで朝の勤行の様子を見学させてもらった後、一路パンゴン・ツォを目指す。道中のハイライトは、チャンラ峠。標高は約5300メートル。この難所を越えていかなければパンゴン・ツォにはたどり着けない。一番の心配は高山病だった。富士山とほぼ同じ標高のレーとストックで3泊して高地順応はできたつもりではあったが、5000メートル級というのはぼくにとっては初体験、未知の高さ。身体がどんな反応を示すのかまったく予測がつかないだけに、不安は大きかった。

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ティクセを出発し、チェムレ・ゴンパを通り過ぎてしばらく走ると、いよいよ峠道へ。上るにつれ、雄大な景観が車窓のむこうに開けてくる。これまでたどってきた細い道が一望のもとに見渡せる。あーこれはすでに標高4500メートルは超えてるよな。そんな風に想像しただけで胸のあたりが苦しくなり、頭がクラクラしてくる。こんな具合では先が思いやられる。

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ジグザクの道をしばらく走り、とうとうチャンラ峠の頂上に到達。ここで休憩タイム。周囲の山肌は雪で覆われてまぶしい。その彼方にはどこまでも真っ青な空。高山病を心配するなら車内にとどまったまま動かないほうがいいのだけど、やはり写欲には勝てず、思い切って車を降りてみることにした。深い呼吸を心がけながら、意識的にゆっくり歩く。特に息苦しさは感じない。意外と大丈夫かもしれない。

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カメラ片手にしばらく歩きまわる。世界で一番高いところにあるカフェ、という看板を見つけ、入ってみたい気もしたが、あまり調子に乗って長居しては後が恐い。15分ほどで散策を切り上げ、車に乗り込むと峠を後にする。ちょっと歩き過ぎたかなと後悔したが、幸い、その後の道中で高山病が発症することはまったくなかった。
もしかしてオレって高山病になりやすいのでは、というイヤな自覚は昔からあった。それをはっきりと感じたのは、2007年、イエメンの首都サナア滞在中であった。標高2300mのサナアで高山病っぽい症状が現れたときには、我ながらかなり情けなくなった。そして2010年、初めてラダックを訪れたときの高山病の苦しさといったら……。それだけに、車でさっと越えただけではあるものの、今回5000メートル級を何事もなく制した達成感はことのほか大きかった。自分の中のリミッターが解除された気分。満足感と安堵の中、まだ見ぬ青きパンゴン・ツォへと走る。

蒼穹のラダックへ – 砂曼荼羅 –

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ラダックで最も有名なゴンパのひとつであるティクセを初めて訪れたとき、偶然にも砂曼荼羅の制作光景と出会った。
まだ作り始めたばかりのようだ。
長い棒から色砂を少しづつ落としていって作り上げていくという、高い技術と集中力を要する作業。もちろん大切な修行でもある。
そんな根気のいる作業だが、それでも何日か後には、驚くほど精緻で色鮮やかな砂曼荼羅ができあがっているはずだ。少しでも完成に近づいた曼荼羅を見てみたい。そう願いながらティクセを後にしたのだが、残念ながらその願いは叶わず、再びこのゴンパを訪れる時間が取れぬまま帰国することとなってしまった。
完成した砂曼荼羅はすぐに壊して川に流してしまうそうだから、あのときの砂曼荼羅はもうどこにもない。翌年、ラダックを再訪したときにティクセにも足を運んだのだが、砂曼荼羅も制作光景も見ることはできなかった。同じ曼荼羅は二度と現れない。諸行無常である。
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