『ムスリムの女たちのインド』

さる2日、著者であり、写真家でもある柴原三貴子さんのスライド上映会に足を運んできた。

『ムスリムの女たちのインド』は、マクドゥミアという小さな村に住むムスリム一家とともに四季を過ごした著者が、その姉妹や周囲の女性たちの暮らしぶりを同じ女性の視点から綴ったものである。

著者を知ることとなったきっかけは、「あぱかば・ブログ篇」の三谷眞紀さんのブックレビューだった。インドのイスラムの女性というテーマへの興味、感動で胸が詰まったという三谷さんの感想、このレビューの直後に朝日新聞の書評欄でこの本が取り上げられたことなどから、これは「読め」ってことだなとピンとくるものがあった。ちょうど著者ご本人が書き込んだコメントからスライド上映会のことを知り、会場で書籍も購入できると聞いたので、日曜の午後、真夏に戻ったのではと思わせる暑さのなか、渋谷の会場に出かけた。ちなみに、この上映会は、「ナマステ インディア フェスティバル 2005」のプログラムのひとつとして開催されたもの。上映会の前には、代々木のメイン会場でインド料理を堪能し、腹ごしらえをしておいたのは言うまでもない。

上映会では、現地の村人の素朴な歌声をバックに、村の日常を切り取ったスライドが心地よいペースで流された。その後、柴原さんから現地での体験談をいろいろうかがうことができた。

スライドを見て感じたのは、女性が女性にしか見せない柔和で温かい表情や、女性にしか撮れない家庭風景というものがあるのだなあ、ということ。これは、イスラム圏を旅したことがある男性ならよくわかると思う。上映後のお話の中で印象に残ったのは、同じ村の中で、イスラム教徒とヒンズー教徒の家族が仲良く共存し、助け合って生きているということ。たとえば、肉を食べるイスラム教徒は、菜食主義者の多いヒンズー教徒に気を遣い、肉を料理するときは普段開け放たれているドアを閉め切るし、また、肉を持ち運びするときもヒンズー教徒の目に入らないように工夫しているという。

上映会のあと、念願の御著書を購入。その場で直筆サインとポストカードをいただいた。

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家に帰って、ひと仕事終えたあとの深夜、購入した本を静かに開いてみた。感じたことはいろいろあるけれど、それは三谷さんの感動的なレビュー記事の中でほぼ語り尽くされているので(ぜひレビューを読んでみて)、ここではひとことだけ。この本の魅力は、異なる言葉と文化と宗教の中に飛び込んでいった著者が、自らの驚き、発見や、家族同様に暮らした姉妹それぞれの人生の断片 ―結婚、出産、育児、死別といった出来事― を丹念に綴っていることにある。それは確かなのだけど、なんといっても最大の魅力は、そうした断片をていねいに積み重ね、一本の糸を通し、ひとつの美しい輪を完成させていくことで、宗教や習慣の違いを越えて私たちが共有する感情と、時代を超えて変わらない大切な何かを鮮やかに浮かび上がらせている点にあるのだと思う。きっとそれは、余計なものをそぎ落とした簡素な村の暮らし、霊にまつわる数々の不思議な見聞、もう一人の自分が自分を見下ろすという体験などを経てきた著者だからこそ描きえたものなのだろう。

「村で生きるさまざまな世代の女性と過ごした季節は、小さな日常をていねいに重ねてゆく美しさと、その重なりの先にしか見えない、かすかに光る自由があることを教えてくれた」

著者のあとがきの一節が心に響いた。

ほかのブロガーからもリクエストがあったように、こんどはぜひ写真集を出していただきたいというのが、希望のひとつ(もちろん、それが大変なことは重々承知していますが)。そして、機会があったら、柴原さんが体験談や世界観について直接お聞きしてみたいというのがもうひとつ。後者のほうは、近々ひょっとしてひょっとしたら、という見込みもあり、楽しみ。


ムスリムの女たちのインド

8件のコメント

  1. 旅カナ-BLOG-
    2005年10月16日

    『ムスリムの女たちのインド』

    まず、この本を紹介してくれたtt-blogのあづま川さん、ありがとう。やっぱりご縁です!
    それから、メールに応えてすぐにサイン本を送ってくださった、著者の柴原三貴子さん、本当にありがとうございました。3日で読んでしまいましたが、とてもしあわせな時間でした。
    『ムスリムの女たちのインド』は、写真家の柴原三貴子さんが、インドの名もないイスラームの村に1年間暮らし、女性たちの日常生活と人生を同じ女性の視点で、四季を通じて�…

    返信
  2. あづま川
    2005年10月6日

    >ogawaさん
    本当に好著ですよね。
    生活を描いているのですが、馴れ馴れしくもなく、かといって
    突き放しすぎてもいない、ほどよい距離感が心地いいと思いました。
    >三谷さん
    最初の書き込みを読んだ瞬間、あーこりゃあ酔っぱらってるなとわかりましたよ。
    酒の勢いを借りないと告白できないほど内気なタイプだったっけ、などと考えてしまった。
    って冗談はともかく、眞紀さんとは異なる角度からレビューを書こうと思ったけど、
    けっきょく眞紀さんのようにうまく書けずあきらめちゃった。悔しいなあ。
    >柴原さん
    わざわざの書き込みありがとうございます。
    とても素晴らしい上映会とお話でした。
    緊張は伝わってきましたが、きちんとお話しされていました。最後はまだ話足りないご様子でしたが・・・。
    御著書に掲載されていない写真やエピソードを披露していただいのでうれしかったです。
    機会があったら、またぜひお話を聞かせてください。
    >kanaさん
    ご無沙汰しています。自分のサイトをいじれないほど忙しいとは、なんといってよいのやら。
    こちらもこのところずっと忙しく、身も心も乾き切っている状態なのですが、
    それだけに、この本には潤いを与えられましたよ。
    いつもながら、kanaさんの直感は冴え渡ってますねー。この本、きっと気に入りますよ。
    kanaさんの旅行記を読んでいるのでわかりますが、指向性がとても似ている
    気がするのですよ。
    柴原さんに直接注文すれば、たぶんサインもいただけると思うので、お楽しみに。
    また関西方面に行くときには遊んでくださいね。

    返信
  3. 三谷眞紀
    2005年10月6日

    し、しまった。ここでもアホーなヨッパライカキコをばっ。
    ワタシってばバカバカバカバカ。
    いえ、あづま川さんはもちろん大好きですが、コメントになってない……でも柴原さんご本人が見えてヨカッタね。
    ワタシの評紹介もしてくれて、ありがとう。うれしいです。

    返信
  4. kana
    2005年10月6日

    あづま川さん、こんにちは!
    最近あまりにも忙しく、加えて仕事でもとうとうWEBの運営に関わり出し、自分のサイトとブログをまったく触る気になれない&触るヒマがないkanaです。おひさしぶり!お元気ですか?!
    何か、とんでもなく素敵な体験をされたようですね。あづま川さんらしい。
    このところずっと旅行も行ってないし、1日の仕事を終えて外そうとすると乾燥し切ってぽろっと落ちる私のコンタクトレンズのように、最近乾き気味の私。そんな私に、「これを読め!」と言われているような気がして、Amazonでショッピングカートにこの本を追加した、まさにそのとき、ふとあづま川さんのブログに戻ってみたら、何と!柴原さんご本人から書き込みが!!しかも直接「発送します」って…!
    ブログってすごいなあ、人のつながりってすごいなあ。
    というわけで、柴原さん、突然ですが後でメールさせていただきます。よろしくお願いします。
    あづま川さん、ありがとう!また遊ぼうね。

    返信
  5. 柴原三貴子
    2005年10月6日

    先日は、渋谷へご来場いただきありがとうございました。早速、本の内容についても触れていただいて、嬉しいです。
    当日はあまりの緊張で、何を話したのかあまり記憶にないほど。。。あづま川さんのお話だと、一応私はきちんと話していたようで、ほっとしました。また、ゆっくりお会いしましょう。
    宣伝ありがとうございます。
    もし、このコメントをご覧の方で、「ムスリムの女たちのインド」購入ご希望の方は、shibamiki@mti.biglobe.ne.jp までメールいただければ、発送します。

    返信
  6. 三谷眞紀
    2005年10月5日

    ん〜、いいねえ。
    あづま川さん大好き。

    返信
  7. ムスリムの女たちのインド

    7月末にたまたま買った本「ムスリムの女たちのインド」の著者、柴原三貴子氏とネット上で知り合いになりました・・・これも「縁」なので応援のテキストを書いてみます。
    女性の

    返信
  8. ogawa
    2005年10月5日

    あづま川さんも買われたのですね。
    この本は単なる「旅本」ではなく、「人の生活」を丁寧に書いた好著ですよね。
    応援している「ひとり」として、とても嬉しく思います。

    返信

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