ジャワ島の古都ジョグジャカルタに、プラウィロタマンという、手頃なゲストハウスやレストランが立ち並ぶ通りがある。この通りに門を構える「ドゥタ」という人気のゲストハウスに泊まったことがある。6年前の春のことだ。
ゲストハウスとはいえ、設備や調度はなかなかのものだった。従業員もとても親切で、午後にはお茶とケーキを出してくれたり、街歩きのアドバイスをしてくれたりした。また、車をチャーターしてクラトン(王宮)やプランバナン寺院を訪れることができたのも、このゲストハウスのアレンジのおかげであった。
ゲストハウスから一歩プラウィロタマン通りへと出れば、ベチャと呼ばれる自転車タクシーが何台も所在なげに客待ちしていた。適当な運ちゃんを選んで料金交渉して、ジョグジャカルタ市街や伝統舞踊を見に出かけた。また、通りの近くにはバティック工房が集まる地区があって、そこでバティックの製造工程を見学し、お土産としてバティックを購入した。市街から離れてはいるが、便利で快適な通りだった。もう一度ジョグジャを訪れる機会があったら、またこの通りのこのゲストハウスに泊まろうと思っていた。
27日早朝、マグニチュード6.3の大地震が、ジョグジャカルタ地域を直撃した。
昨日、朝日新聞の夕刊を開くと、ジャワ島地震がジョグジャカルタの観光産業に大打撃を与えているという記事が、崩れ落ちたホテルの写真と一緒に載っていた。その記事の冒頭に、プラウィロタマン通りが安宿街として紹介されていた。驚いたのは、続いて「ドゥタゲストハウス」の主人のコメントを見つけたときだった。もしやここも全壊……。が、主人のコメントによれば、被害は天井の一部に穴が開いただけにとどまったようだ。少しホッとした。が、真の被害はそれだけではすまないだろう。欧州が旅行シーズンに入る7月までに営業を再開したいが、家を失った従業員も多く、どうなるかわからない、と記事の中で主人が語っているからだ。
この最後のコメントを読んで感じたのは、もしここが隣のバリ島なら、欧州の旅行者じゃなくてまず日本人が離れるのを心配するコメントになったのではないか、ということだ。ぼくがジョグジャカルタを訪れたのはもう何年も前だが、そのときから、バリ島に比べてこの地を訪れる日本人の個人旅行者はさほど多くなかった。バリ島からのオプショナルツアーでボロブドゥールやプランバナンを訪れる日本人はそこそこいたのかもしれないが、そうした旅行者さえ、近年のテロや災害で減少傾向にある。そんな状況に追い打ちをかけるように、欧米人の足も遠のいたとしたら、彼ら、ベチャの運ちゃんをはじめとする人々が被る損害は計り知れない。しかも、観光資源のプランバナン寺院も、地震によって激しい損傷を被ったというから、さらに客離れが進むおそれがある。
もちろん、被害は観光産業にとどまらない。いまだに瓦礫の下敷きになっている人もまだ数多くいる。直接的な救援活動はできないけれど、なんらかの支援は日本からもできる。ぼくもわずかだけどしたし、これからも続けていきたい。
早朝のボロブドゥールにて。ここは奇跡的に被害を免れたようだ。
2006年6月6日
>Eijiさn
そうですね。形の大きさや用途は人によってさまざまだけど、
まずは各人ができる範囲で形に表すことが大切なんだと思います。
EijiさんもDutaに泊まったのですね。あの通りは、
安宿街といってもカオサンのような喧噪とは無縁で、
落ち着いて過ごせるところでした。元の穏やかな姿に
戻る日が一刻も早く訪れることを願うばかりです。
2006年6月6日
「想いのネットワーク」といいますか、募金やホームページで「想い」を形にする人もいれば、それらの「想い」をネットワーク化しして現地に届けようという「想い」を持つ人もいます。まずは何でも良いから、「自分の想い」を「形」にすることが大切なのかな、という気がします。
僕も年初にジョグジャで泊まったホテルは、Duta Guest Houseでした。近況が分かってとりあえずは安心しましたが、経済的被害は後からじわじわと迫ってくるので、やはり今後が心配です。
2006年6月3日
>Ginaさん
まったくそのとおりですよね。
もちろん悪いやつらも中にはいるけれど、いま自分がここに
こうしてちゃんと戻ってこられたのは、現地でさまざまな
人から受けた親切のおかげだということだけは、忘れたくないです。
ジョグジャだけではなく、モロッコのメルズーガも洪水で
壊滅に近い状態だと聞いています。
なにかを返さなければと思います。
2006年6月1日
旅人は、地元の人の善意によって存在できていると
思ってます。"外国人のねーちゃんが、困ってるらしいから、
しゃーない、何とかしたろ"とか、"せっかくこの街にきてくれたんだからいい想い出をつくってもらおう"とか、そういう親切、やさしさのお陰で、人生いい想い出の数が増えてきました。
ブランバナンは私も1度だけですが、訪れた場所です。
自分が受けた親切の何分の一かを返せる機会かな、と思ってます。
2006年6月1日
>眞紀さん
被災者に対して何ができるのか、と考えたとき、今の自分にとって最良の手段はやはり金銭的な支援かなあと。あとは、こうして記事や写真を載せることくらい。
過去に縁があった場所や人に対してくらいは、なにかしなくてはと思います。
旅をしなければ、そういう気にもならなかったかもしれません。
>ヒョウちゃん
被害の全貌が明らかになるまで時間がかかると思うので、それまでは見合わせるしかないのでしょうね。余震もあるかもしれませんし。
今すぐは無理ですが、ぼくもまた訪れたいです。
ロンボクもいいですよ。
>Yaeさん
ボロブドゥールから眺めた霧の夜明けはとても神秘的でした。
朝日が昇るにつれて、その霧がだんだん晴れて、やがて目の前に・・・。
Yaeさんにはぜひ体験してもらいたいです。
2006年5月31日
ものすごく惹かれる場所です。
いつか行きたいので、私も何かしたいです。
素敵な写真、ありがとうございます。
2006年5月31日
まだ、行ったことはなかったんですが、行くつもりでした。<ジョグジャカルタ。
とはいえ、この状況では、見合わせるしかないですか。
ということは、時をしばらく置いて、また計画するということですね。いったいいつになるかなあ。
早い復旧を願います。
2006年5月31日
うーん、セクハラ発言のあとに続くのはやや難しいですが……私も、もう15年前に、ジョグジャに長いこといました。
一人だったけど、例によっていろんな人とたくさん話して親しくなって、世界の中でもかなり思い出深いところです。
そこの人に直接的になにかをできないというもどかしさは、旅をしたことのある人間ならだれでも感じる気持ちだと思います。
義務感にとらわれたらおしまいだけど、旅行記書いたり、ステキな写真を撮って、それらを見た人の心にそれが残っていく、というのも、なにかしていることに(すごく遠回りだけど)つながっていると思いたい。
でもとりあえず、先立つものだよな。
いますぐ被災地がほしいのは。