歴史の古さがにじみ出ている堅牢な城郭の門をくぐる。一歩中へと足を踏み入れると、目の前には別世界があった。石畳の小道に沿って、白壁の家並みが続いている。屋根の赤煉瓦が、そのまぶしさを引き立てている。
とうとうたどり着いた彼の地。感動に浸っているところへ、一人の男が近づいてきた。目の前にカードを差し出す。宿が決まってなければぜひここへ。私の母がやっている宿なのです、という。流ちょうな英語だ。宿を確保できるかどうか、この地を訪れるにあたってそれだけが心配の種となっていたのだが、これで一安心。
彼の案内で、この日はその「CASA D. ANTONIA」に泊まることに。
窓からの見晴らしは抜群だ。ベランダの彼方には、アレンテージョのたおやかな平原が広がり、遙か地平線まで見渡せる。
落ち着いたところで、村を散策してみる。
急ぎ足は似合わない。静かなたたずまい、穏やかな空気、眼下のパノラマをゆっくりと目と肌と心で味わう場所だ。
夕方近く、城壁の外に出てみようかと、門に向かう。さっきの人なつっこい犬が道の真ん中でうたた寝している。のどかだなー。
門を出ると、丘の先端に寂しげにたたずんでいる教会が目に留まった。あの教会を目指すことにして、歩き出す。ふと振り返ると、さっきまで居眠りしていた犬が、ぼくをトコトコ追いかけてくるではないか。楽しい犬だ。よっぽど好奇心が旺盛なのか、それとも、異邦人のぼくがあらぬ方向に行ってしまうのではと心配しているのだろうか。こんな小さい村で迷子になどなるはずもないのに。
石畳の坂道を下り、そして上って、教会がたたずむ丘にたどり着いた。犬もしっかりお供してくれている。お疲れさま。
教会の内部は、荒れ果てるがままうち置かれている。
裏手に回ってみる。眼下には、平原がどこまでもどこまでも続いている。
時の流れが、一瞬、止まった。
隣を見ると、ぼくと同じように、犬も平原を見下ろしている。
さすがはサウダーデの国。人間だけではなく、犬の背中にも哀愁が漂っている。歴史と土地によって育まれるものなのだろうか。
取り残されたような丘の上の村。この村で生まれ、この村で過ごし、一度もこの村を出ることなく死んでいく住人もいるという。この犬もそうなのかなあ。彼方の地平線を眺めながら、遠い異国の旅人と戯れながら、そして、もうすぐ奏でられるであろう「沈黙の音」を待ちながら、こいつはいったい何を想っているのだろう。もちろん、1泊で村を離れる異邦人のぼくには、推し量るすべもなかった。
2007年5月20日
Hello, Your site is great. Regards, Valintino Guxxi
2007年4月20日
>POLICEさん
ちょうどぼくのあとに訪れたのですね。
彼と一緒に散歩しましたか・・・。本当に楽しいヤツでした。
いまも同じように旅人を案内しているのかなあ、と
ときどき想像しては懐かしさに浸ってます。
お互い、また彼の地を訪れてあの犬と会える日が来るといいですね。
よろしければ旅行記のほうもぜひご覧ください。
2007年4月19日
僕も去年の4月にモンサラーシュに行きました。
一泊だけでしたが、最高に素敵な思い出になっています。
僕も「楽しい犬」と一緒に村を散歩しました。本当に案内するように付き添ってくれました。早朝に村を発つときも、口笛を吹くと城壁の中から走って見送りに来てくれた素敵な奴でした。彼の元気そうな姿がまた見られて嬉しいです。ありがとうございます。
モンサラーシュの夕日の美しさは、本当に夢のようでした。
2007年3月31日
>とんびさん
ポルトガル、ぼくは大好きになりました。
また行きたいのですが、ユーロ高なので今年はちょっと
・・・という感じですね。
リスボンからエボラへはバスが頻発しているのでアクセスはよいです。
そこから周辺の村に行くのがかなり大変なのですが、
苦労して訪ねる甲斐はあると思います。
2007年3月31日
ポルトガルにもこんな白い街があったのか、と思い、調べてみました。
やはり、南のほうですね。でも、予想に反して、かなり内陸。しかも、行くのがとても不便そうなところ。
ずっと前から行こうと思って果たせていないポルトガル、いっちょ行ってみようかな、という気分にさせてもらえました。
2007年3月28日
>ERICAさん
心風(新風)・・・またまた素敵な言葉をいただきました。
これもどこかで使わせてもらいます!
そう、哀愁派ですよ。のほほ~ん哀愁派(笑
ぼくもいつものほほんと旅してますよ。
>soraさん
人間と同じように遠くをずっと眺めてましたからね。
本当に何を考えているのか知りたかったです。
景観の保持に関しては、石の文化と木の文化の違いの差かなと思います。
火事や地震、戦争も多かったですしね、日本は。
でも正直、こういう村が日本にも欲しいですよね。
2007年3月27日
最後の写真の犬さんは、何か絶対に「考えて」ますよね。
その心の中を覗いてみたくなる絵です。
どうして、街の景観を統一することができるのでしょうね?
変える経済力が無いのか、歴史を大切にしようとしているのか、美観を保つためなのか。
何が日本と違うのでしょう。アーティストが美を生み出すのではなく、美は既に目の前に存在している・・。それに気付くかどうかの違いなの?でしょうか。
2007年3月27日
次の写真が楽しみ~
この犬に本当に気に入られましたね~
もしかしたら、静寂の街に少し旅風を運んできた(?)
あづま川さんの心風(新風)に触れてみたかったのかも・・・
*私は哀愁派?ですか(笑) 「のほほ~ん派」だと思っていました。
2007年3月27日
>ぴおさん
ポルトガルは、よかったです。
哀愁を帯びた景色と空気が、自分にはぴったりでした。
ポルトガルではなぜか犬と仲良しになりました。
リスボンでもオビドスでも。そのうち写真をアップしたいのですが、
その前に次の旅が・・・。
>ヒョウちゃん
この宿は、よかったですよ。オフシーズンだったので、
宿泊客も少なかったし。内装も落ち着いてました。
ヨーロッパの犬は、大きいけどおとなしいからさほど恐くないです。
よくしつけられてますよね。
>ERICAさん
そう、やはり哀愁を内に秘めた者同士は惹かれあうのですよ。
ERICAさんも隅に置けない哀愁派だから、きっと気に入られますよ。
こいつは翌朝もぼくについてきてくれました。また写真を掲載します。
2007年3月26日
犬に受けいられましたね。
きっと、「同じ哀愁」が感じ取れたのでは?
(雰囲気や大気の読めない人間と動物は過ごしたがらない・・・気がします)
2007年3月25日
ポルトガルの田舎ってこういう宿が多いのかなあ。
僕もエルヴァスで口コミの宿に泊まりましたが、モンサラーシュのアントニアさんの家には、かなわないですね。いいところじゃないですか。
ところで、あづま川さんは犬にも好かれるようですね。
ヨーロッパってけっこう大型犬が多いんですけどね。
2007年3月25日
ひえーーー!
絵葉書みたい!!!
やっぱり、あづま川さんの作風、あってますよ、ポルトガルに。
や、これはもう、下手に現地に行くとギャップありそう(笑)。
犬も引き続き、いいですね。
猫のモロッコから、犬のポルトガルって感じでしょうか。
やっぱり無敵に組み合わせだったんですね、この旅。
いつか私も、まとまった時間が取れたら、行ってみたいです。