世界の終わりと旅の終わり

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以下は、おとといメインサイトにアップした「バンビエン、自転車で巡れば」のエピローグのようなものです。

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ソン川のほとりでラオス最後の夕日を見届けると、歩いて町に戻った。
すでに通りは闇に包まれ、ところどころネオンがきらめいていた。
どこからか、騒がしい音楽が洩れてくる。

小さなバンビエンの町は、ゲストハウスとレストランで成り立っていると言っても大げさではないだろう。夜になると人工的な光と音で彩られ、およそ200メートル四方のその一画だけがあたかもひとつの島のように、周囲の静寂と暗闇から浮かび上がる。

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その島の縁にたどり着くと、一軒のレストランが目に入った。看板には、「END OF THE WORLD」とあった。

世界の終わり。

バンビエンの前に滞在していたルアンパバーンでは、村上春樹の『辺境・近境』を読み返していた。ぼくくらいの世代の旅行者には思い当たるところが多々ある旅のつらい現実が描かれており、そう、そうだよなあとしみじみ読んでいたこともあって、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を連想させる「END OF THE WORLD」が暗闇から出現したことがなんだか偶然とは思えず、気がつくとその店にあがりこんでいた。

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ビーフのラープとカオニャオ。そしてもちろんビアラオ。このトリオは史上最強だ。

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さらに春巻き。春樹にちなんで春巻きを注文……というわけではない。
今夜の食事はカロリー高そうだ。でも、旅の終わりだし、世界の終わりだし。

ちなみに、これは池澤夏樹などにも言えるんだけど、村上春樹って小説より旅ものや語学もののほうが面白いと思いませんか? 『辺境・近境』もそうだし、『遠い太鼓』、『やがて哀しき外国語』、『翻訳夜話』などなど。それと、これは柴田元幸の著作になるが『翻訳教室』のなかで村上春樹とジェイ・ルービン(村上作品の英訳者)が翻訳について静かに熱く語っているんだけど、こうした旅や翻訳の話のほうが読んでいて楽しいと個人的には思ってしまう。

最後の夜だからと、もう一軒寄ることにした。

通りを進む。とあるカフェではパッカーらしき欧米の男たちがサッカーの衛星放送を観ている。向かいのカフェでは白人の女の子が「フレンズ」を観ながらげらげら笑っている。バンビエンまで来てオバカドラマを観てる場合か。ここは世界の終わりなのに。

さらに歩き、テレビがなくて空いてそうな店に入った。

頼んだのは、「サンライズ」というカクテル。そして締めは、赤いラオワイン。

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一口飲んでみる。甘い。甘ったるい。
が、この甘さが、旅の終わりの切なさをほどよく中和してくれるような気もした。

ほのかな湿気を含んだ甘い空気。甘く輝くネオン。甘く香るワイン。
アジアのやさしい甘さに身も心も抱かれて、世界の終わりの夜はふけていく。
そして雨期明け間近のラオスの旅も、明日で終わる。

10件のコメント

  1. あづま川
    2007年11月11日

    >TMさん
    「辺境・近境」のメキシコ旅行記、あれを読んでから
    メキシコ熱が高まりました。楽しい体験はほとんど
    書かれていないのですが、かえってそれが興味をそそります。
    写真集は持ってないのですが、書店で見つけたら手に取ってみます。

    返信
  2. TM
    2007年11月11日

    「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」読みましたが、感性鈍い私にはよく分かりませんでしたわ。
    「辺境・近境」は読んでなかったので、本屋さんでチラッと立ち読みしたら、「メキシコ大旅行」が面白そうなので買ってきました。
    ついでに写真をメインにした「辺境・近境 写真篇」も。
    1992年ですから、今から15年前のメキシコのようですね。
    たしかに、旅行記のほうがずっと分かりやすいです。

    返信
  3. あづま川
    2007年11月7日

    >ananさん
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    10年ほど前に行かれたのですね。ぼくは去年初めて訪れたので
    昔の様子はわからないのですが、そのころに比べて観光客はぐっと
    増えたようです。通りにはネットカフェが何軒もあって、
    朱色の袈裟のお坊さんも熱心にキーボードを打っています。
    とはいえ、町そのものはまだまだのどかで、心が落ち着きました。
    また訪れて違いを確かめる機会が来るといいですね。
    これからもよろしくお願いします。

    返信
  4. anan
    2007年11月6日

    初めてお便りします。素晴らしい写真と稀なdestinationに感動し、折々に拝見してます。懐かしいラオスのお話しに、つい、コメントさせていただきました。10年ほど前に、ルアンパパーンに行き、真っ暗な夜道に、子供のころを思い出しました。その中でただ一か所、煌々と電気がついていたのは、パソコン塾でした。発展途上の国ほど、インフラのない分、インターネットが発達しています。カオニャニャ食べました。最近はルアンパパーンに行くツアーもあります。あの頃とどのくらい変わったのでしょうか?また行ってみたいです。おそらくアジアの中で、一番親日的な国ではないでしょうか?

    返信
  5. あづま川
    2007年11月6日

    >maxumiさん
    はじめまして。
    ポルトガルに行かれるのですね。
    ポルトガルの旅の模様は小出しに
    掲載していくのでまた見に来てくださいね。
    リンクはご自由に張ってください。
    ではでは、これからもよろしく。

    返信
  6. maxumi
    2007年11月5日

    ポルトガル旅行計画のため、
    ネット検索をしていたところ
    こちらのブログに出会いました。
    あまりの写真の美しさにじーんとしてしまうほど。。
    これからも沢山お邪魔したいので
    リンクをはらせていただいてもよろしいでしょうか?
    アメリカからたわいもないブログを書いております。。。
    記事と関係のないコメントですみません。

    返信
  7. あづま川
    2007年11月5日

    >barramedaさん
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    甘く切なく、がテーマのひとつなので、切なくなってもらえたら
    とてもうれしいです。
    南スペインにお住まいなのですね。
    彼の地も切ないです、ぼくにとっては。でもいいところですよね。
    いつか再訪してみたいです。
    また遊びにきてくださいね。

    返信
  8. あづま川
    2007年11月5日

    >soraさん
    写真のご飯はカオニャオという餅米なんですけど、
    本当においしいんです。ご飯好きにはたまりません。
    Coyoteの21と22は手元にはあるのですが、まだ読んでないんです。
    ニコラ・ブーヴィエは知らないのですが、特集は面白そうですね。
    オースターも好きなので前号を読むのも楽しみです。
    池澤夏樹とケルアック・・・こちらも興味深いです。
    ちなみにいまは『パレオマニア』読んでます。

    返信
  9. barrameda
    2007年11月5日

    いつも楽しく、そして少し切なく拝見しております。ラオスの空気がとても伝わってきまして、思わずコメントしてしまいました。
    タイのワインも甘いですよね、ホントあの味は切なくなります。
    これからも楽しみにしております。

    返信
  10. sora
    2007年11月5日

    少しご無沙汰です。
    ページを開くと、香辛料の匂いと艶やかなネオンと甘ったるいカクテルの味が飛び込んできました。
    てんこ盛りのご飯が嬉しいですね。無類のご飯好きなので・・。
    話は違いますが・・
    今月のCoyoteはニコラ・ブーヴィエという作家の特集。あづま川さんならご存知?(僕は知りません・・)
    「世界の成り立ちについて」という旅行記を書いた作家のようです。とても興味深い本でした。
    ただ、和訳されていない?ようです。
    翻訳してください!!
    PS)池澤夏樹氏がケルアック『路上』の新訳、『オン・ザ・ロード』を出すようです。これも気になります。

    返信

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